エリカ通信

No.6 / Dec.15.2006
エリカ通信 第6号
I.最近の「成果主義」関連刊行物評
i)「成果主義がソニーを破壊した」(ソニー元常務 天外伺朗 文芸春秋2007 新年号
 全篇を通じて流れる強烈な「井深ノスタルジー」。ソニーがホンダと並び世界的な技術革新の先駆者であった時代,トリニトロンTVやCD,犬型ロボットAIBOの開発を陣頭指揮した技術畑のリーダーが,現在のソニーの惨状を慨嘆しつつも出自への郷愁に悩むソニー版新派悲劇の一幕である。同氏は1995年頃より導入した成果主義がその元兇というが,真因はどうやら文中で一言も触れぬ盛田天皇時代に決断したハードからソフトへの戦略的シフトらしい(ハリウッド映画のTOB,保険会社や銀行業への進出)。これがホンダのように一途に物作りに徹し、頑なに「他社の創れぬものを創る」主義を続けてきた企業との差異を齎したのではなかろうか?

 しかし四輪業界は製品に機能上の限界があり(空を飛ぶ商品にはならぬ)、安全/環境対策の 優劣が業界内の序列の決め手という比較的単純な世界である。これに比べエレクトロニクス業界の素晴らしさと難しさは、CD,パソコン、ゲームやITのように、全く新しい製品と市場を次々と創出し,人々の生活や社会構造,戦争の姿まで変えるダイナミズムにある。人類の進歩/発展に寄与する潜在力には大差がある。技術革新のテンポや必要な投資額の差も大きく,ホンダとソニーの戦略的優劣を論ずるのは、土俵が違いすぎるだけに容易ではない。

 ともあれ同氏のソニー流成果給への批判は,下記のとうり技術開発の第一線指揮官からの忌憚無き発言として示唆に富むものだ。(カッコ内は筆者の寸評)

@ 業務の成果を計る物差し=仕事の内容の数値化は容易でない。成果の測定にエネルギーや時間が
費消され,肝腎の仕事がおざなりになれば本末転倒となる。
(そのとうりだが,要はバランス感覚。メソッドが決れば本来負担は減る筈


A 目標への「達成度」を評価の基準にしたため,ほぼ全員が達成可能な目標へと「バー」が下がり,ソニー
精神の「挑戦する」ことをやめた。
(子供の仲良しクラブじゃあるまいし,スタッフのクオリテイーの問題)


B

目先の利益追求ムードが蔓延,短期的に収益貢献度の低い品質保持検査やエイジング業務(経年変化
チェック)を軽視する傾向が発生。
(重要なポイント。評価項目とそのウエイト
決定時に要配慮)


C

個人別査定の他,事業部ごとの経済価値評価・査定で部全体の報酬を決定したため,事業部間の溝
が拡大,相互の連携が悪化。
(成果給導入時のオリエンテーション欠如が原因)


D

成果主義の最大の弊害は,上司が部下の人間を見ようとしないで、何事もマニュアルにしたがった「評価の
目」で見るようになる点だ。人間の行為の数値化で客観的かつ公正な評価が出来るか個人的には疑問
に思う。部下の評価は「独断と偏見」によるべし。「もし評価をするなら自分の命を賭けて,直感で評価
しろ!」「人事(部)のつくった精密な評価表は全部無視しろ!」と指導した。
(新しい世代に対する感度不良。ソニー不振の一因を見る感じ)


結局ソニーの現状は,「物作りの鬼」井深大から芸大O.B.起用にいたった,振幅の大きいトップ・マネジメントの変貌に象徴される生き残りを賭けた戦略転換→物造り重視の企業体質の変化→栄光を誇った技術陣の、経営方針への大きな失望などの織り成すやや特殊な複合現象だろう。しかも未だ新戦略展開の当否について結論は出せまい。(例えばソニーの存否を問う新発売のゲームの成否はまだ不明)この時点で「成果給に罪有り」と決め付けるのは些か短絡的で独断的。元トップの一員としてはチト思考力不足ではないか?。


ii)成果主義の新展開(日本能率協会編 Nov.2006 ¥1,600.)
 能率協会による主要40社での成果主義実施例の実態を、時系列的に3段階(2004/7月  ,2005/1月 2005/11月)で調査・分析した報告書。調査対象が大企業に限られてはいるが,調査結果の普遍性は十分に認められ,他に資料が乏しい現在,貴重な存在だ。特に成果給による人と組織の「持続的成長につながる5つの基本原則」の提案(P.17)例えば“人事部主導からライン(現場)主導へ”など,実体験に裏打ちされた具体性と説得力に富む。即戦力として大いに活用できる内容の充実度、水準の高さも絶賛に値する。成果主義導入に不安を持つ向きや導入後の調整に苦労する人々にとり目下“成果主義のバイブル“といいうる唯一の刊行物である。

 上記二著作を読んで改めて強調したいのは,成果給の本質が@目標管理の徹底A評価の基準が提示され,透明性の高い,公平で公正な評価がなされるチャンスが得られる点にあることだ。しかも究極の目的が“優れた人材の確保と育成”による組織力・競争力の強化であることを忘れてはならない。制度である以上,関係者全員が制度の趣旨を良く理解し,本来の目標実現に協力することが不可欠であり,特に経営側の周到かつ積極的な支援姿勢が成否を決する(富士通,ソニーの前例からも明らか)ことを付言しておきたい。