エリカ通信

                                                                       No./ June 10,2009

 エリカ通信 第7号

I.最近の「成果主義」関連刊行物評
@)『成果主義の逆襲』
   花王,ホンダ,武田はなぜ成功したか(日経ビジネス2009.5.11号)
  
 わが国のメディアは総じてアンチ・成果主義、なかでも朝日新聞は強烈で、週刊朝日まで動員しネガティヴ・キャンペーンに努めたほどだ。唯一の例外は、中立的立場を維持する日経グループ。さすがに経済界への情報提供を使命とするだけに、欧米企業では常識の筈のこのシステムの採用が、わが国でなぜ難航するのか我慢強くフォローして来たようだ。
 今回の特集は未曾有の世界的不況下で苦闘する日本企業の中で、逆風に良く耐え、明らかに同業他社と比べ隔絶した好業績を上げている企業の共通点が、『成果主義導入の成功』であることをつぶさに立証した労作である。特にデータの新しさ、実態分析の視点の斬新さに優れ、人事部門のみならず、企業戦略の企画関係者の必読の文献として推奨したい。
 取り上げられた企業:花王,ホンダ,武田は、いずれもわが国では一流だが、国際的にはそれぞれの業界でベスト・テン以下(武田は10位)の存在だ。それだけにグローバル化する市場を相手に国際競争を勝ち抜き、持続的成長の実現による「生存を確保」するには、海外の同業同様、『成果主義』的な人事評価と給与制度の達成がいわば不可避であった。
 このような問題意識は、すでに企業規模の大小を問わず共通で、経団連のメンバー企業の8割、中小企業の半数以上が何らかの形の成果主義的色彩を帯びた制度を導入済。思考錯誤に悩むケースが多いものの、制度を断念・放棄した例はほぼ皆無で、各社とも修正しつつ継続しているようだ。この特集でも中堅・中小の特色ある企業での成功例が紹介されている。
 反面、成果主義への批判も、最新のアンケート(P.26-27)が示すように決して少なくないが、導入開始後ほぼ10年を経て成否の分かれ目となる問題点が次第に明らかとなった。

1. 失敗の要因は制度そのものより運用上の問題が大きい 60.0%
2. 導入後まだ制度を改善していない (67.1%)
3. 主な改善内容: 成果に至るプロセス評価のウエィトを上げた (44.3%)
           部下の指導や他のメンバーへの協力も評価 (33.4%)
           チームとしての成果も評価の基準に採用 (22.0%)
           評価者の数を増やした (16.4%)
 つまり制度実施後のいわばメンテナンスに、企業全体としてどの程度努力したかの差が成否を決定する要因である。

ii)成功の要諦・・・成果主義定着のエッセンス

 
 さて肝腎の努力の中身は、ほぼ各社に共通している

1. 企業の業績と個々の社員の仕事との関連を明確に示すことで目標達成の意欲がわき、士気の向上と会社への愛着(愛社精神)が醸成される
2. 企業の「理念」の明示が不可欠であり、これを徹底し、社内に浸透させる
3.

制度を自社や各部門の実情に合わせカスタマイズし、かつ経営環境の変化に応じてカイゼンし続ける努力を、トップ以下全員が心がける

4. 人材の育成も制度の重要な目的として、一体的に運用する意識を持つ
 
「社員が役割を十分果たせるようにするためには、能力開発を支援して成長を促すことが欠かせない。人材の育成と切り離して人事評価・報酬制度の良し悪しだけを議論しても意味がない」(花王:人材開発部門統括執行役員P.34-35)。まさに“企業は人なり”だ。
 ホンダの場合は社内を支配する『危機意識』が制度を支える。1992年に導入した年俸制がスタートだけに、息が長く、筆者が訪れた幹部(久慈法人営業部長)の反応は、「弊社の成果主義?ハテほとんど意識しませんね。」と制度としてすでに完全消化済みの域にある。無理もない。
 ホンダの人事評価5原則は
@ 会社の目標に応じた個人の役割目標の達成度 A 自ら設定した個人的なチャレンジ・テーマの実現 B 所属する部門への貢献度 C 後輩の指導・育成 D ホンダ・フィロソフィーの実践度
と上記の成功法則エッセンスと相似形だ。

iii)成果主義の展望・・・・
  
望まれる中堅・中小企業でのサービス生産性向上


 日経ビジネスが慧眼にもこの時点で「成果主義の逆襲」を特集したのは、経済環境の激変が確実なわが国の企業にとって、成果主義的人事評価や成果給が極めて有効な不況突破の手段であるのみならず、中長期的な観点からも画期的な経営戦略効果を発揮することがいまや明らかとなってきたからであろう。
 特に日本経済の弱点とされる「サービス部門の生産性」の低さを国際水準に引き上げる決め手が、この制度の「自社流の完全消化」にあることは、この特集からもまず確実である。なかんずく中堅・中小企業での卓効発揮は、すでに筆者自身が十分体験済でもある。
 わが国経済界での成果主義の再検討と、更なる「逆襲」効果発揮が切望される所以である。